『君たちはどう生きるか』ネタバレなしの予習編。見る前に知っておきたい予備知識のまとめ

2023/07/17
『君たちはどう生きるか』

 2023年7月14日(金)スタジオジブリ制作・宮崎駿監督のアニメーション映画『君たちはどう生きるか』が公開された。今回より監督の名義が「宮崎」から「宮﨑」に変わっているため、以降は「宮﨑駿」の表記で統一する。

 本作は事前告知やプロモーションが一切行われない形で封切られたため、世界観やストーリーを予想することが難しい。これから劇場で鑑賞しようと思っている方や、気になっているけど映画館へ行くか迷っている方のために、ネタバレなしで予習内容をまとめる。鑑賞後に期待外れだったと思いたくない場合は、要点を押さえておくといいだろう。

 2013年に公開された『風立ちぬ』からちょうど十年が経ち、引退宣言を撤回した宮﨑監督が、今の時代にどんな物語を残すのか。個人的には鑑賞前に期待していたものとは全く違う内容であり、予想外の作品だった。

原作小説は読んでおくべきか?

 未読でも問題ない。本作のタイトルは、1937年に出版された吉野源三郎の小説から取られたものだが、映画の内容に関する原作と脚本はどちらも宮﨑監督本人の名義となっている。そのため、テーマやインスピレーションの部分では参考にしていても、内容自体はオリジナルとなっている。

事前知識はどれくらい必要か?

 本作の映画体験を最高のものにしたいのであれば、事前知識を全く入れずに見るのがベストだ。ここで言う「事前知識」とは、『君たちはどう生きるか』の作品内容に関することだ。

 今回、事前告知やプロモーションが一切行われない形で公開された。そのため、キャラクターや声優を把握しておく、設定やあらすじを読んで好みの内容か吟味する、プロモーションを見て期待値を定める、といったことが意図的にできないようになっている。

 当然、原作との関係性やジブリ作品の系譜は知っておいた方がいいだろうが、作品そのものに対する予防線は必要ない。

 実は、この戦略そのものの意味や意図を考えさせられる内容が本編に含まれている。それを自分で体験し、自分の頭で考えたいタイプの人は、鮮度が高いうちに観てしまった方がいいだろう。

過去の作品と比較してどんな内容か?

 どんな形であれスタジオジブリの作品であれば過去の作品との比較は避けられない。基本的には、自伝的な作風に仕上げられた『風立ちぬ』と同じ路線の作品だと言える。

 初期に作られた『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のような完全なファンタジーではないし、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』のように少女が活躍する物語でもない。さらに『千と千尋の神隠し』や『崖の上のポニョ』のように小さな子供が夢中になれるような内容とも言い難い。

 製作期間中に鈴木敏夫プロデューサーが明かした「冒険活劇ファンタジー」という路線は、ある部分では当てはまっているし、全体がそうなっているわけではない。

 表現は難しいが、『風立ちぬ』以後の宮﨑駿監督が、『風立ちぬ』以前に作った自身の作品をセルフオマージュしつつ、「今の視点」と「原点」を取り入れた晩年の作品と言える。

鑑賞前の期待値をどこに設定しておくべきか?

 いわゆる「ジブリアニメ」を期待して見に行くと、人によっては肩透かしをくらう作品かもしれない。そこで、誤った期待値をを補正する意味合いでガイドラインを載せる。

 少なくとも、宮﨑駿版の『君たちはどう生きるか』は、タイトルから容易に想像できる内容にはなっていないし、主人公の行動を通じて視聴者を説教するような作品にもなっていない。かといって『風立ちぬ』以前の作風に戻ったり、観客を楽しませるための脚本やストーリー構成を意識した作品でもない。

 もしあなたが、この作品に物語としての「面白さ」や「完成度」を求めているなら期待しない方がいい。あくまで、これは宮﨑駿のイマジネーションをつなぎ合わせたものであり、今の彼には世界/社会が「こう見えている」という部分を垣間見るものである。

 よって、大衆娯楽のエンターテインメントとして完成された商業作品を見に行くという姿勢ではなく、極めて私小説的な監督の作家性が発揮された映像芸術作品を見に行く、という心構えの方が納得いくだろう。

他に押さえておくべきポイントは?

 物語の内容を全く知らない状態で映画館へ行くのは、よっぽどのファンでない限りハードルが高い。そこで、時間とお金を使ってまで映画館へ足を運ぶべきか判断を迷っている人のために要点を載せる。

 まず、本作の主人公は思春期の少年。今回は特に「思春期の」という部分に力点が置かれている。それを想定しておくだけでも、かなり見通しが良くなる。

 次に、舞台設定は現実の日本。時代背景は第二次世界大戦中。最初からファンタジーや異世界の話を想定しないように。

 そして、話の筋は外の世界へ向かって出ていくのではなく、自己の内側へと向かって潜っていくというもの。その過程で「冒険活劇ファンタジー」的な展開が描かれる。

 また、ネット配信やサブスクで見ればいいやと思っている人は要注意。劇場公開が終わったあとのスタジオジブリ作品は、非常に限られた環境でしか視聴できない。

 現時点で期待できるのは、およそ二年後に初放送されるであろう地上波のテレビ(『風立ちぬ』 が2013年7月に劇場公開、2015年2月に​​日本テレビ系列『金曜ロードSHOW!』で初放送)。

 DVDやBlu-rayなどのパッケージが出るのは、それよりも早い時期だが劇場チケットよりも割高になる。

 少しでもこの作品を「気になっている」人は、早めに劇場で見てしまった方が、ストレスを感じずに済むと思う。

最後に

 すでに鑑賞した人の評価やレビューは賛否両論だ。なぜそうなったかと言えば、各個人が「ジブリ作品」や「宮﨑駿アニメ」に独自の期待感を持ち、何の事前情報もままいきなり鑑賞したからだ。

 だから、少しの予備知識と期待値の補正は必要だと思った。これが本稿を書いた理由である。本作は鮮度が高いうちに見た方が、何かと考えられる作品だ。おそらく、情報が出揃い他人の感想や先入観にまみれてしまった後では、純粋な本質の部分は霞んでしまう。

 ぜひこの機会に『君たちはどう生きるか』を自分で体験し、自分の感性と向き合い、自分の思考で答えを探してみて欲しい。