ソーシャルゲームで成功を収めるために絶対に外してはならないこと
多くの会員を抱えるWebサービス(主にSNS)がオープンプラットフォームとして機能するようになり、様々なデベロッパーがソーシャルゲームの世界へ参入しました。
日常的にインターネットを利用する人たちにとって、ソーシャルゲームはごく普通の存在となり、今では「ネットでゲームをする」という行為が一般的になったと言えます。
既に世の中には多くのソーシャルゲームが登場しています。中には、何百万人もの会員を獲得したものや、月間数億円を稼ぎ出すものなど、後発のデバロッパーにとって目標となるタイトルも存在しています。
世界各国で文化の違いやユーザーの好みの違いがあるため、一概にどんなゲームがヒットするかは分かりません。しかし、ソーシャルゲームをヒットさせるために絶対に外せない要因を特定することはできます。
今回は、ソーシャルゲームで成功を収めるために絶対に外してはならないことを書きました。概念としてはWebサービス全体に応用できる内容になっています。
まず結論から
ソーシャルゲームをヒットさせるためには、考えなければならないことが山ほどあります。その中で特に注目しなければならないことが、「そのゲームをやっていない時にどうやって思い出してもらうか」です。
もはやゲームの中ばかりに執着していては勝てません。生き残りを掛けた戦いは、むしろゲームの外で行われているのです。
これからソーシャルゲームをリリースするデベロッパーにとってのライバルは、ユーザーの時間を奪う全てのエンターテイメントです。
ソーシャルゲームに限らず、無料で楽しめるコンテンツは世の中に溢れています。iPhone/Androidアプリ、オンラインゲーム、ニコニコ動画やネットの生放送、twitterやFacebookのリアルタイムフィードなど、無数にある選択肢の中で、どのようにして選ばれるのか、それを考えなければなりません。
無料ゲームの場合、ユーザーは気軽に参加してくれる反面、あっという間にどこかへ行ってしまいます。今この瞬間、一番に関心を引くことができなければ、他のゲームにユーザーを奪われてしまうことになります。
世の中にどれだけ面白いコンテンツが誕生しても、それを消費する人が持てる時間は、一人につき24時間と決まっています。その中で生き残っていくためには、あらゆる手を尽くして「気になる存在」にならなければなりません。
そのためには、ユーザーがゲームをやっている時、途中で中断する直前、ゲームをやっていない時間など、様々なシーンの行動心理を先読みして、もう一度アクセスしてしまうような原因を意図的に組み込まなければならないのです。
この「そうしなければならない」という設計思想は、開発者だけでなく、全ての関係者が共有していることが望ましいです。
人気のタイトルを調べてみると、巧妙にデザインされた仕組みが組み込まれています。この仕組は、コンテンツではなくコンテキストの部分なので、目に見えるものではありません。ユーザーがアクションを起こす前後関係のつながりが動機となり、「もう一度プレイする」という結果に結びついていくように設計する必要があります。
少し抽象的な話になってしまったので、一つ具体例を上げたいと思います。
なぜ「怪盗ロワイヤル」は成功したのか
日本のソーシャルゲームで最も成功した事例として、DeNAがリリースした「怪盗ロワイヤル(モバゲータウン/2009年10月~)」があります。「怪盗ロワイヤル」は、上記で説明した通り「ゲームをやっていない時に思い出してもらう」という要素をとても上手く組み込んでいます。
▽体力(ミッション要員)の回復
「怪盗ロワイヤル」の詳しい説明は省きますが、ミッション(クエスト)クリア型の典型例として、体力(ミッション要員)と引き換えにミッションをクリアしてステージを進めて行く機能があります。いわゆるブラウザゲームの代表的なゲーム要素で、ボタンをポチポチ押しているだけで誰でも楽しむことができる簡単な内容になっています。
ユーザーは自分の選んだキャラクターが持っている体力を使って、ミッションをクリアしていきます。ボタンを押すごとに「レベルアップ」や「お宝発見」などの演出が起こり、小さな成功体験をユーザーに与えていきます。成功体験を繰り返すことでユーザーはゲームに熱中し、ゲームを次へ進めたいという欲求が生まれます。
ボタンを押すというアクションに対して、直ぐに結果が出るシステムがサクサク感を生み、ユーザーは慣性の法則に従って先へ進んでいきます。
その時、「体力切れ」が起きると、ミッションを先へ進めることができなくなってしまいます。体力は時間で回復するので、何もしなければいずれ満タンになります。ここでユーザーは選択を迫られるのです。「待って」体力が回復してからゲームを再開するか、課金で体力回復アイテムを「買って」すぐに続きをプレイするか。
ほとんどのユーザーはいきなり課金をするようなことせずに、「待つ」方を選びます。ゲームを先に進めたい状態で「待つ」という選択を迫られることは、「お預け」を言い渡されるようなものです。体力は3分に1ずつ回復するので、無意識に逆算して「1時間後には全回復してるな」などと考えてしまいます。
この仕組みによって、ゲームを中断したとしても、記憶の片隅に残っている余韻がリピートにつながるのです。
▽お宝の奪い合い
「怪盗ロワイヤル」の特徴として、他のユーザーのお宝を奪う機能があります。ミッションやイベントで手に入れたお宝は、コレクションとして保管できる代わりに、他のユーザーから奪われる危険性があります。お宝を奪われないようにするためには、キャラを強化して強くなること、ワナを仕掛けて相手を出し抜くこと、全種類コンプリートしてロックを掛けることです。
お宝をコンプリートするためには、素早く全種類を集めなければなりません。素早く集めるためには、他人のお宝を奪うのが一番です。こうしてお宝をコンプリートするという目的は、絶妙なバランスで「奪い合い」へと発展します。
他人のお宝を奪うには、バトルを仕掛ける必要があります。しかし、バトルを仕掛けるには攻撃要員を消費します。攻撃要員がなくなってしまうと、ミッション同様、「お預け」状態になってしまいます。
課金しないユーザーは、ここでゲームを中断せざるを得ないのですが、自分が苦労して手に入れたお宝が、他のユーザーに奪われるかもしれないというスリルは、ゲームをやっていない時にこそ効果を発揮します。お宝の奪い合いの楽しさを知ったユーザーは、「いま自分のお宝は無事か」というリアルタイムの状況が気になって、頻繁にアクセスしてしまうのです。
▽「怪盗ロワイヤル」が成功した理由
このように「怪盗ロワイヤル」は、ユーザーの意識にゲームの余韻を残すことに成功しています。ゲームをやめた途端、そのゲームのことをすっかり忘れてしまうようでは、次にいつアクセスしてくれるのか分からなくなってしまいます。優れたソーシャルゲームは、ゲームをプレイしていないユーザーの時間にも影響を与えているのです。
ソーシャルゲームにとって、ゲーム内容はもちろん重要ですが、「その後どうなったか」「そろそろいいかな」などの、ユーザーの心理を上手くコントロールする仕掛けが必要なのです。
「怪盗ロワイヤル」は国内でいち早くこの仕組を実現し、ライバルが少ないうちに一気にユーザーを獲得したことが成功した理由であると言えます。
もちろん、成功した背景には他にも多くの仕掛けが関係していますが、“多くのユーザーがもう一度プレイしてくれること”そのものが、全ての源泉になっているのです。
リピーターにこだわる理由
ソーシャルゲームを提供する者にとって新規ユーザーを獲得することはとても重要なことです。しかし、もっと重要なことは、一度来てくれたユーザーに繰り返しプレイしてもらうことです。まだそのゲームの存在を知らない人は、近い未来にユーザーになってくれる可能性があります。しかし、一度ゲームから離れてしまったユーザーを再び呼び戻すことは極めて困難です。
ユーザーは、あらゆる要因から「つまらない」というレッテルを貼ったゲームには二度と近づきません。プレイしていたゲームで「気づいたらやらなくなっていた」というパターンもありますが、結果的に面白くないからやらなくなったということになります。
どんなゲームでも、新規ユーザーにとっては新しい存在です。しかし、一度でも接触したユーザーにとっては、「面白い」か「面白くない」かの評価対象になります。新規ユーザーを獲得できないことよりも、獲得したユーザーに嫌われてしまうことの方が、何倍も大きな損失になることを意識しなければなりません。
ゲームをやっていないユーザーの時間に影響を与えるためには、ゲームの中に仕掛けを組み込まなければなりません。そのことを重視し、デザインと設計ができるメンバーが揃ったときに、成功するソーシャルゲームが生まれるのではないでしょうか。
ソーシャルゲームをヒットさせるために絶対に外せない項目
今回は、「もう一度プレイしてもらうこと」に絞って説明しましたが、ソーシャルゲームの設計段階で吟味しなければならない項目は、次の3つになるかと思います。
- 再ログイン対策(どうやって思い出させるか)
- インバイト対策(どうすれば人に教えたくなるか)
- 課金対策(どうすればお金を払いたくなるか)
全ての機能やコンテンツが、「再ログイン対策」「インバイト対策」「課金対策」に作用していることが理想です。このうちどの項目にも貢献しない機能は極力そぎ落として考える必要があります。
その考えを原点としながらも、残しておかなければならない部分が、ゲームの世界観や面白さの特徴となるでしょう。もちろんグラフィック、操作性、易しいUI、チュートリアルの分かりやすさは無くてはならないものです。
しかし、これからはコンテンツの良さだけでなく、ユーザーの利用シーンや行動心理を先読みして作っていく必要があります。それは、WebサービスやiPhone/スマートフォンのアプリを作るときにも役立つ考え方ではないでしょうか。