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書評『里山資本主義 ― 日本経済は「安心の原理」で動く』藻谷浩介・NHK広島取材班

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里山資本主義
里山資本主義 ― 日本経済は「安心の原理」で動く

里山資本主義 ― 日本経済は「安心の原理」で動く

著者
藻谷浩介・NHK広島取材班
出版社
角川oneテーマ21
初版
2013/7/10

 本質は「革命的に」転換される。人の「世」も「心」も同じように。

 本書は、マネー資本主義の流れによって「経済の常識」に捉われてしまった現代人に向けて、その集団幻想から目を覚ますように訴えかける一冊。もしあなたが、今の生活に疑問を感じていたり、将来の生活に不安を抱えているとしたら、今こそこの本を手にとって「別の選択肢」に思いを巡らせてみて欲しい。

 この「里山資本主義」は、NHK広島放送局がプロデュースしたドキュメンタリー番組を下敷きにしている。そのため、著者は藻谷浩介とNHK広島取材班の共著になっているが、ここでは著者=藻谷浩介氏とする。

 著者は、日本総合研究所の研究員として様々な政策に関わる一方で、地域エコノミストという活動を通して、全国各地で地域経済やまちづくりに関する講演を行っている。著書に50万部のベストセラー『デフレの正体』がある。

 彼の主張は、資本主義を捨てて田舎暮らしをしようというものではなく、マネー資本主義と里山資本主義の「いいとこどり」をして豊かに暮らそうというもの。その真意は、書き出しの部分にはっきりと書かれている。

 なにも、便利な都会暮らしを捨て、昔ながらの田舎暮らしをしなさいというのではない。「ブータンみたいな幸せ」を押しつけようというのでもない。
 ひょっとすると、生活の中身はそれほど変わらないかも知れない。しかし、本質は「革命的に」転換されるのだ。それはどういうことか。

――『里山資本主義』書き出し

 謎かけの解答は本書に譲るとして、著者は本の中で「多様性」という言葉をキーワードに掲げている。私は、この多様性を受け入れる姿勢が現代にとって重要だと考えている。歴史的に見ても、AかBかの二元論に陥ると、必ず弊害と揺り戻しが起こるからだ。

 現代社会は、「グローバル化」というスローガンの元、経済的合理性を追い求めて競争を余儀なくされてきた。その結果、庶民の幸福度が上がったかというと、必ずしもそうではないという意見が多いのではないだろうか。誰もが納得するような「常識」というのは、一見万能なように見えて、実は時代の変化に対して脆弱である。理論的に説明できる物事とは、あくまで一定の思考のフレーム内における部分最適であるからだ。そういった意味で、マネー資本主義が行き渡った現代に対して、カウンターのように里山資本主義的な考え方が浸透していくのは至極当然なように感じる。

 本書で語られるのは、自然の生態系を上手く利用して、お金には替えられない富を得ようとする活動だ。

 第一章では、岡山県真庭市で起こった地域再生の事例が語られている。ここでは、製材の過程で出る木くずを利用したエネルギーの自給が紹介される。中国地方に広がる豊かな山林を活用して、化石燃料に依存しない生き方という視点は、後の章でも度々引き合いに出される。そもそも、普段の生活の中で「エネルギー」をどこから調達しているかという視点を持ち続けることは難しい。この感覚が得られるだけでも、本書を読む価値があるだろう。

 第二章以降も、海外や地方で起こっている具体的な変化を紹介しながら、「里山資本主義」的思想の良さが語られる。ここに書かれているのは、いわゆる「専門家」が考えだした「理屈」ではなく、実際に現実世界で起こっている出来事であるという点に注目したい。一つ一つの事例は参考程度に捉えておけば良い。事例はあくまで過去に上手く行ったパターンなので、読者は「今現在」を立脚点として世界を見渡す必要がある。

 私たちは、知らず知らずのうちに何でもお金に換算して物事を考えるようになってしまった。こうしたマネー資本主義に疑問を投げかけるアプローチは『エンデの遺言 ― 根源からお金を問うこと』にも見ることができる。こちらもNHKで放送されたドキュメンタリーを書籍化したものだ。「里山資本主義」を読んで地域通貨の存在に興味をそそられた方は、上記の書籍も合わせて読むと共に、シルビオ・ゲゼルという経済学者についても調べてみることをお薦めする。

 信用創造で際限なく膨れ上がるグローバルマネーは、インターネットの登場によって光の速度で移動するモンスターと化した。お金の流通量は増えているはずなのに、庶民の「景気」は一向に明るくならないのは何故か? そんな誰しもが思っている疑問に対して、我々ができるアプローチは一つしかない。「自分にとっての幸福を自分で見つける」ことである。

 本書は、行動を起こそうとする人にとって視野を広げるための一助となる。これからの「現代人」は、たった一つの方法を盲信して特定のシステムに依存するのではなく、絶え間なく流れる時間の中で、変化に対して柔軟に手段や道具を使い分けていく「しなやかさ」が求められる。

 戦後、バブル崩壊後、リーマンショック以降、大震災以降と、時代に大きな変化が訪れる度に人々の心は大きく揺らいだ。「このままでいいのだろうか?」そんな疑問が生まれたならば、「豊かな暮らし」とはいったい何か? ということを問い直してみてはいかがだろうか。

 今、人類に必要なのは、「等身大の豊かさ」かも知れないのだから。

目次

はじめに――「里山資本主義」のススメ

  • 「経済100年の常識」を破る
  • 発送の原点は「マネー資本主義」
  • 「弱ってしまった国」がマネーの餌食になった
  • 「マッチョな経済」からの解放
  • 世の中の先端は、もはや田舎の方が走っている

第一章 世界経済の最先端、中国山地――原価ゼロ円からの経済再生、地域復活

  • 二一世紀の〝エネルギー革命〟は里山から始まる
  • 石油に代わる燃料がある
  • エネルギーを外から買うとグローバル化の影響は免れない
  • 一九六〇年代まで、エネルギーはみんな山から来ていた
  • 山を中心に再びお金が回り、雇用と所得が生まれた
  • 二一世紀の新経済アイテム「エコストーブ」
  • 「里山を食い物にする」
  • 何もないとは、何でもやれる可能性があるということ
  • 過疎を逆手にとる
  • 「豊かな暮らし」をみせびらかす道具を手に入れた

第二章 二一世紀先進国はオーストリア――ユーロ危機と無縁だった国の秘密

  • 知られざる超優良国家
  • 林業が最先端の産業に生まれ変わっている
  • 里山資本主義を最新技術が支える
  • 合い言葉は「打倒! 化石燃料」
  • 独自技術は多くの雇用も生む
  • 林業は「持続可能な豊かさ」を守る術
  • 山に若者が殺到した
  • 林業の哲学は「利子で生活する」ということ
  • 里山資本主義は安全保障と地域経済の自立をもたらす
  • 極貧から奇跡の復活を果たした町
  • エネルギー買い取り地域から自給地域へ転換する
  • 雇用と税収を増加させ、経済を住民の手に取り戻す
  • ギュッシングモデルでつかむ「経済的安定」
  • 「開かれた地域主義」こそ里山資本主義だ
  • 鉄筋コンクリートから木造高層建築への移行が起きている
  • ロンドン、イタリアでも進む、木造高層建築
  • 産業革命以来の革命が起きている
  • 日本でもCLT産業が国を動かし始めた

中間総括 「里山資本主義」の極意――マネーに依存しないサブシステム

  • 加工貿易立国モデルが、資源高によって逆ザヤ基調になってきている
  • マネー依存しないサブシステムを再構築しよう
  • 逆風が強かった中国山地
  • 地域振興三種の神器でも経済はまったく発展しなかった
  • 全国どこでも真似できる庄原モデル
  • 日本でも進む木材利用の技術革新
  • オーストリアはエネルギーの地下資源から地上資源へのシフトを起こした
  • 二刀流を認めない極論の誤り
  • 「貨幣交換できない物々交換」の復権――マネー資本主義へのアンチテーゼ①
  • 規模の利益への抵抗――マネー資本主義へのアンチテーゼ②
  • 分業の原理への異議申し立て――マネー資本主義へのアンチテーゼ③
  • 里山資本主義は気楽に都会でできる
  • あなたはお金では買えない

第三章 グローバル経済からの奴隷解放――費用と人手をかけた田舎の商売の成功

  • 過疎の島こそ二一世紀のフロンティアになっている
  • 大手電力会社から「島のジャム屋」さんへ
  • 自分も地域も利益をあげるジャム作り
  • 売れる秘密は「原料を高く買う」「人手をかける」
  • 島を目指す若者が増えている
  • 「ニューノーマル」が時代を変える
  • 五二%、一・五年、三九%の数字が語る事実
  • 田舎には田舎の発展の仕方がある!
  • 地域の赤字は「エネルギー」と「モノ」の購入代金
  • 真庭モデルが高知で始まる
  • 日本は「懐かしい未来」へ向かってる
  • 「シェア」の意味が無意識に変化した社会に気づけ
  • 「食料自給率三九%」の国に広がる「耕作放棄地」
  • 「毎日、牛乳の味が変わること」がブランドになっている
  • 「耕作放棄地」は希望の条件がすべて揃った理想的な環境
  • 耕作放棄地活用の肝は、楽しむことだ
  • 「市場で売らなければいけない」という幻想
  • 次々と収穫される市場の〝外〟の「副産物」

第四章 〝無縁社会〟の克服――福祉先進国も学ぶ〝過疎の町〟の知恵

  • 「税と社会保障の一体改革頼み」への反旗
  • 「ハンデ」はマイナスではなく宝箱である
  • 「腐らせている野菜」こそ宝物だった
  • 「役立つ」「張り合い」が生き甲斐になる
  • 地域で豊かさを回す仕組み、地域通貨をつくる
  • 地方でこそ作れる母子が暮らせる環境
  • お年寄りもお母さんも子どもも輝く装置
  • 無縁社会の解決策、「お役立ち」のクロス
  • 里山暮らしの達人
  • 「手間返し」こそ里山の極意
  • 二一世紀の里山の知恵を福祉先進国が学んでいる

第五章 「マッチョな二〇世紀」から「しなやかな二一世紀」へ――課題先進国を救う里山モデル

  • 報道ディレクターとして見た日本の二〇年
  • 「都会の団地」と「里山」は相似形をしている
  • 「里山資本主義への違和感」こそ「つくられた世論」
  • 次世代産業の最先端と里山資本主義の志向は「驚くほど一致」している
  • 里山資本主義が競争力をより強化する
  • 日本企業の強みはもともと「しなやかさ」と「きめ細かさ」
  • スマートシティが目指す「コミュニティー復活」
  • 「都会のスマートシティ」と「地方の里山資本主義」が「車の両輪」になる

最終総括 「里山資本主義」で不安・不満・不信に訣別を――日本の本当の危機・少子化への解決策

  • 繁栄するほど「日本経済衰退」への不安が心の奥底に溜まる
  • マッチョな解決に走れば副作用が出る
  • 「日本経済衰退説」への冷静な疑念
  • そう簡単には日本の経済的繁栄は終わらない
  • ゼロ成長と衰退との混同――「日本経済ダメダメ論」の誤り①
  • 絶対数を見ていない「国際競争力低下」論者――「日本経済ダメダメ論」の誤り②
  • 「近経のマル経化」を象徴する「デフレ脱却」論――「日本経済ダメダメ論」の誤り③
  • 真の構造改革は「賃上げできるビジネスモデルを確立する」こと
  • 不安・不満・不信を乗り越え未来を生む「里山資本主義」
  • 天災は「マネー資本主義」を機能停止させる
  • インフレになれば政府はさらなる借金の雪だるま状態となる
  • 「マネー資本主義」が生んだ「刹那的行動」蔓延の病理
  • 里山資本主義は保険。安心を買う別原理である
  • 刹那的な繁栄の希求と心の奥底の不安が生んだ著しい少子化
  • 里山資本主義こそ、少子化を食い止める解決策
  • 「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている
  • 里山資本主義は「健康寿命」を延ばし、明るい高齢化社会を生み出す
  • 里山資本主義は「金銭換算できない価値」を生み、明るい高齢化社会を生み出す

おわりに――里山資本主義の爽やかな風が吹き抜ける、二〇六〇年の日本

  • 二〇六〇年の明るい未来
  • 国債残高も目に見えて減らしていくことが可能になる
  • 未来は、もう、里山の麓から始まっている
里山資本主義 ― 日本経済は「安心の原理」で動く

里山資本主義 ― 日本経済は「安心の原理」で動く

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