けいおん!に学ぶ初心者が長続きするバンドを作るための秘訣

2012/12/24
映画けいおん!

直接の影響かどうかは分かりませんが、「けいおん!」のアニメ化以後、街でバンドマンを見かける頻度が増えたように思います(特に若い女の子)。駅前を通ると、しょっちゅうギターやベースを背負った女の子たちに出くわします。

「前はこんなにいなかったよなー」と思いながら、自分がバンドを始めた高校生時代のことをふと思い返していました。「けいおん!」は、バンド経験者から見ても、良くできた作品だと思います。そこにはちゃんとバンド活動の文脈が描かれているからです。

それを踏まえて、経験者なりに何か伝えられることはないか、「けいおん!」を素材にしてまとめてみました。これからバンドをやってみたいと思っている人や、やり始めたばかりの若い人に読んでもらいたいエントリーです。

けいおん!の登場人物は各楽器パートの特性を良く現している

けいおん!放課後ティータイム

「けいおん!」は、登場人物の性格やポジションが各パートのメタファーになっていて、バンドがどのような性質の組み合わせで成り立っているのかを知る良いきっかけになります。また、何気ない日常の中にも、長続きするバンドを作るための秘訣が隠されています。それらを読み解いて、バンド活動に役立ててみましょう。

唯タイプの人(ヴォーカル、ギター)

一応「けいおん!」の主人公的ポジションですが、軽音部に入ってからギターを始めたり、音楽の知識ゼロなので全くの初心者です。でも高校生ならほとんどの人がそんな感じだと思います。

彼女の特徴は、普段怠け者で頼りないですが、自分が興味を持ったことに対する集中力は抜群で、特に好きなことや楽しいことを見つけると、後先構わずに全情熱をそこに傾けるところにあります。

このタイプは暇さえあればギターを弾いているので、全くの初心者から、ある程度弾けるようになるまでの成長速度がとても速いです。ギターに「ギー太」と命名して溺愛してるくらいですから、毎日ギターに触っていることが見て取れます。

実は、初心者にとって「毎日ギターに触る」ということは一番重要で、上達するための一番の近道になります。「毎日練習する」と聞くと大変そうですが、ただネックを握って、弦や指板に指を慣らすだけで効果があります。とにかく、テレビを見ながらでも、ギターを抱えて何となくジャラジャラ鳴らしているだけでもOKです。

また、テクニックよりも「楽しい!」という気持ちが前に来ていることも重要で、このタイプの人は本番に強く、ライブで緊張しないので、普段通りの演奏力をそのまま発揮できます。演奏力が他のメンバーよりも少し劣っていても、勢いでカバーできるので、特段上手くなくても成立するのが唯タイプなのです。

逆に、このタイプがテクニカルなギターソロや捻りの効いたギターリフに興味を示し始めたら危険信号です。元々器用じゃない上に飽きっぽいので、途中で面倒くさくなって放り出す可能性があります。また、音楽への向き合い方が「楽しい」というフィーリング面から、「上手く弾こう」とするテクニック面にシフトすると、本来持っていた輝きを失ってしまうことになります。

初めから上手く弾こうとしなくても大丈夫です。テクニックは後からいくらでも付けられるので、音楽を理屈で考える前に、とにかくギターに触って、弾いて、大きな音で鳴らすことが楽しい!という感覚を大事にした方が上手くいきます。

澪タイプの人(ベース、コーラスorヴォーカル)

彼女の特徴は、真面目で努力家。やると決めたことに対して、行動を惜しまないところにあります。その反面、押しが弱く、恥ずかしがりやなので、人前に出て目立つことは苦手な方です。

彼女のような性格のメンバーが一人いるととても心強いです。バンドと言っても複数の人が同じ目的のために動くわけですから組織になります。そこにはやはり「ちゃんとした人」が欠かせないのです。

このタイプは、一見突っ込みどころの無いように見えますが、実は一人で行動を起こすことが苦手です。唯や律のように先陣を切ってくれる人がいないと勢いが付かないのです。そのためリーダーには向いていません。みんなの意見を聞いてまとめることはできても、独断で「やるぞ!」となならない。だから、その部分を押し切ってくれるメンバーが必要です。

その代わり、みんなの同意、もしくは誰かの決断で方向性が決まると、やるべきことをキッチリとこなしていきます。進んで歌詞を考えてきたり、歌詞を作るためのインスピレーションを得るために電車に乗って遠くまで行ったりします。事が上手く運ぶように、みんなに気を配ったり、状況を確認したりするのもこのタイプの人です。

澪タイプは、器用で賢いので、楽器が上手くなるコツを掴むのが上手かったり、理屈で音楽を考えるのが得意です。そのため、相対的に演奏力が高くなりやすいのですが、「上手に」やろうとするため、本番に弱く、なかなかライブで本領発揮することができません。

練習中の演奏力が100だとしたら、ライブでは65~75くらいになるでしょう。そのため、普段は他のメンバーよりも実力が高いはずなのに、ライブのパフォーマンスは唯タイプと同じくらいに映ることになります。

それでも、バンド活動が上手くまとまるかどうかは、このタイプのメンバーの存在に掛かっていると言っても過言ではありません。表立って目立たないけど、しっかりと土台を支えるのが好き。そんな性格の持ち主にピッタリなポジションです。

律タイプの人(ドラム)

彼女の特徴は、勢いがあり大雑把な性格なので、「よしやろう!」と言ってリーダーシップを発揮できるところにあります。その代わり、細かいことは気にしないことから、大事なことを忘れたり、後々面倒くさいことに巻き込まれたりします。

この「私に付いて来い!」という性格は、ドラマーにとって非常に重要なスタンスです。バンド演奏の基本原則は、「ドラムに合わせろ」です。ギターに上手い人がいるからと言って、ドラムがギターに合わせたり、ベースがリズムを刻んでいるからと言って、メンバーがベースの方を向いてやっては駄目なのです。

基本的に練習やセッションの時は、ドラムを中心に取り囲むようにして、他のパートが向かい合います。ベースはドラムの方を向きドラムに合わせ、ギターもドラムの方を向きドラムに合わせます。本来、ドラムに合わせたベースのリズムにギターが合わせる、というようなことをやってはいけないのです。

そのため、ドラムが曲のリズムや抑揚の主導権を握って最後まで行かないと、グダグダな演奏になってしまいます。他のパートは、ドラムが走ったらそれに合わせて付いていくこと。ドラムがもたったら少し待っていること。そしてドラムが叩き出す「アタマ」と「ウラ」に合わせて、しっかりとリズムの上に音を乗せることに集中しなければなりません。

そうやって、全パートがドラムの作り出す軸に歩み寄ることによって、アンサンブルが安定します。なぜ初心者バンドの演奏が安定しないかと言うと、誰が誰に合わせるのかを決めずに、好き勝手なペースでバラバラに進もうとしているからです。そこは「ドラムに合わせろ」一択でお願いします(あくまで基本の話をしていますよ)。

律の性格やリーダーという肩書きは、ドラムのポジションがどういうものかを表すメタファーだと思えば納得がいきます。率先して「行くぞ!」と号令を掛けられることと、小さなミスを気にしないで全体の流れ(演奏)を止めないことは、ドラムにとって大事な要素だからです。

紬(ムギ)タイプの人(キーボード)

彼女の特徴は、みんなの調和を乱さないように上手く調整しながら、メンバーが過ごしやすい環境を作ることが得意なことです。その一方、個人的なことに関しては、好奇心が旺盛でやってみたいことを何でも試してみる野心家でもあります。

バンドの中でのキーボードの役割は、音の空間に広がりを与えたり、ある部分で冒険的な音を出して曲の印象を強くすることです。もちろん主旋律を弾く場面や、ピアノ主体の曲では中心的な存在になりますが、バンドのサウンド全体を見渡して、最終的にデコレーションやスパイスの役割を果たすポジションであると言えます。

まさに彼女にピッタリなパートで、おおらかな性格と気持ちに余裕があるところがキーボード向きなのです。自分が率先して目立とうとするタイプだったら、バンドのバランスを崩してしまうでしょう。主役にならないと気が済まない性格の人は、バンドよりも弾き語りのソロかシンガーソングライター向きであると言えます。

また、小さい頃にピアノを習っていたという設定は、キーボードを担当する人に多いパターンです。ピアノをやっていたということは、楽譜が読めるので、音楽を理論的に考えることができます。バンドの中にこのタイプのメンバーがいると、音楽的な面で頼もしい存在になります。最終的な編曲やアレンジを任せると上手くいくかもしれません。

梓(あずにゃん)タイプの人(リードギター)

彼女の特徴は、音楽に恵まれた環境で育ったため、キャリアも演奏力も一番高い部類に入りますが、謙虚な性格と後輩というポジションのため、でしゃばったことはしないというところにあります。

彼女のようなタイプは、自分を高めたい気持ちが強く、自分が音楽的に認めた人とバンドを組みたいという想いを強く持っています。そのため、現実ではヘッドハンティングで引き抜かれたり、活動内容に納得がいかないとバンドを抜けてしまう可能性が一番高いです。

また、バンド内でリードギターが主導権を握ると、ライブで自分の音を大きくし過ぎてバランスを崩したり、ギターが目立つ曲ばかり選んでワンマンバンドになってしまいがちです。そういうバンドは大概長続きしません。そこは、彼女の謙虚な性格と後輩という設定で中和されています。

このタイプの人は、ギターそのものが上手くなったり、難しいフレーズを練習して弾けるようになることが好きなので、放っておいても練習して上達していきます。その代わり他のメンバーは、彼女が納得するバンドであり続けなければいけないと、少し緊張感を持った方が良いでしょう。

彼女が認めているうちは何をしても許してくれますが、その要因を損なうとネコのように不意にどこかへ行ってしまうかもしれません。

では、なぜ“あずにゃん”はこのメンバーに惹かれたのか?なぜ「この人たちと一緒にやりたい」と思ったのか?それが、これから解明する「バンドの魅力とはなにか」という部分です。

バンドにとって大事なこと

練習しないでお茶している時間は大事

実はバンドにとって、音楽をやっていない時間を共にすることはとても大事なことです。何気ない時間に交わした会話や経験が、バンド内の暗黙知や価値観の共有につながります。練習したら帰るだけの関係だと、そもそもの目的や価値観にズレが生じてきて、結局長続きしません。練習ばかりではなく、適度に遊びや息抜きも混ぜていった方が結果的に上手くいきます。

バンド活動を続けていると、今後の方向性や活動方針について議論することが増えてきます。それは、暗黙知や価値観がズレてきたことによって生じるもので、真面目でストイックなバンドほど、この手の話し合いが多い指向にあります。そうすると、「有名になるにはどうしたらいいか」とか、「売れるためにはどうすればいいか」、みたいな内容ばかりになってきて、本来の「音楽を楽しむ」というところから離れていってしまいます。その結果、長続きせずに終わってしまうのです。

私のバンド仲間で「上手く行っているバンドは、そもそもそんな話し合いにならない」と言った人がいました。上手く行っている時期は、ただただ今このバンドでやっていること、それ自体が楽しいからです。同じ空気を共有しているバンドは、その時間の中で相手のやりたいことに共鳴しているのでしょう。逆に言うと、わざわざ難しい事を話し合わなくても、常に目の前にやることがあって前進しているバンドが上手く行っている状態だということです。

実は見えないところで練習している

バンド活動を順調に進めるためには、個人練習が欠かせません。「けいおん!」で描かれているのは、メンバーが誰かと一緒にいる時間が中心です。しかし、現実では地道な練習を繰り返しやらないと楽器は上手くなりません。

みんなで集まって行う練習は、バンドとしての一体感や曲の完成度を高めるための練習です。曲の構成やフレーズを覚えることや、自分のパートのクオリティを上げることは、その前段階で各自が個人的に済ませていなければなりません。

メンバーのうち一人だけが頑張って上手くなっても、誰かがサボっていれば、バンドとしての完成度は一番下に合わせることになります。また、練習が不十分でフレーズを追いかけることに一杯一杯の状態では、音を楽しんだり一体感を追求することはできないでしょう。

バンドは信頼感が大事です。それぞれが人知れず練習しているからこそ、みんなで合わせる意味があります。誰かが「練習して来い」と言うまでやらないようなメンバーがいると長続きしません。そもそも、音楽はやりたいからやるものであって、人から命令されないとやらないようでは駄目なのです。

もし、唯と同じ状況で学園祭や新歓ライブのようなパフォーマンスを実現するとしたら、相当な練習が必要になります。それこそストーリーで語られている以外の時間は、ほとんどギターに触れているというくらいに。だからこそ、「ギー太」に夢中である描写が効いてくるのです。

一番厄介な現実問題

現実世界のバンド活動は、「時間」と「お金」を天秤に掛けた葛藤との戦いです。

高校生はやることが色々とあって忙しいですよね。まず授業に出て勉強しなければならないし、軽音部以外であれば部活も頑張らなければいけません。色々な友達とも遊びたい年頃ですし、帰って来たらご飯を食べてテレビを見たりゲームをやったりしたいと思います。更に宿題もやらなければならないし、しっかり寝ないと次の日起きられません。そんな生活の中で、いかに楽器に触れる時間を作るかが大きなポイントになります。

また、バンド活動はとにかくお金が掛かります。部室があったりムギのような存在がいれば助かるのですが、現実はそんなに甘くありません。スタジオ代や機材費、飲食代は、バイトをしないと到底払い続けられません。そうなると、バンドをするとお金が減り、お金を稼ぐと時間が無くなるという無限ループに突入します。

この問題は結構シビアで、「時間」と「お金」に対する意識に温度差あるバンドは長続きしません。更に、メンバーの誰かに恋人ができると、この問題の難易度が急激に跳ね上がります。

では、どうやってこの問題を克服するのでしょうか?

まずは、メンバー間の時間とお金に対する価値観を近づけることです。これは、同級生や友達同士なら特別なことをしなくても大体同じなはずです。だからこそ一緒に遊んだり、音楽をやっていない間も一緒にいられる関係が大事なのです。年齢や社会的立場が違いすぎると、価値観を合わせることが難しいので長続きさせることが難しくなります。

そして、最後はバンドをやりたいという意志しかありません。何よりも音楽をやっている時が一番楽しいと思える状態になることです。そのためには、このメンバーじゃなきゃ駄目なんだと思える人を見つけることです。最高のメンバーが見つかれば、他の誘惑に脇目も振らず、音楽に情熱を注ぐことができる状態になるでしょう。

バンドの魅力とはなにか

バンドで一番重要なのは「一体感」です。個々のスキルや経験値の違いはあまり重要ではありません。全員で一発「バーン!」と音を鳴らした時にピッタリ息が合っているかどうか。全部で一つ、塊として鳴った音がいかに説得力を持っているかどうかです。

全員が同じベクトルで、同じ温度で、同じ景色を見たとき、「最高に気持ちいい!」と感じます。その瞬間を共有したメンバーと一緒に音を出すことは、正に「無敵」の状態。そこに生まれる一体感は、テクニックや理論を凌駕し、バンドとしての格好良さを生み出します。

つまりあずにゃんは、この一体感に「やられた」のです。

演奏が上手いというだけでは埋められないものがあります。言葉では表せない「信じることができる何か」を見付けることができた仲間同士が起こす化学反応がバンドの魅力なのです。

初心者が長続きするバンドを作るための秘訣

ということで、放課後ティータイムは、唯がヴォーカル&バッキングギター、澪がベース&コーラスorヴォーカル、律がドラム、ムギがキーボードで、あずにゃんがリードギターというのは、とても理にかなった構成のバンドなのでした。

結局大事なのは人間関係なので、バンドの原点は仲間を作ることだと思います。上手い下手とか、売れる売れないとか、人気が出る出ないは市場が決める結果なので、原点を見失わないようにしましょう。

まとめ

  • 一緒に遊べるようなメンバーを見つけること
  • それぞれのメンバーが自分の性格に合ったパートやポジションに収まること
  • バンドの中心になる「楽しい」ポイントを共有していること
  • 一緒にいない時こそメンバーの一員として練習すること
  • 時間とお金に対する価値観が似ていること

Enjoy!